天然医薬リード探索研究所 >>

設立の趣旨

ヒトゲノム研究が完了し、ポストゲノム研究へと生命科学が進歩する中で、生物体に直接作用する生理活性物質の医薬品リードとしての機能が注目されている。海洋生物クロイソカイメンから単離されたハリコンドリンBの構造をもとに創製されたエリブリン(商品名ハラヴェン)は乳がんの治療薬として上市されたが、医薬資源として天然物をモチーフにしたさらなる創薬研究が求められている。同時に天然から得られるこうした化合物の生産メカニズムを解明し、新たな研究の地平を切り拓くことは生理活性物質研究に課せられた使命である。 本研究所では天然有機化合物の総合的な理解と次世代ポストゲノム研究を指向し、医薬品リードへとつなげる次世代型研究を目指す。基礎から応用へと至る化学的・生物的研究を推進し国内外の先導的研究をになう機関としてその存在をアピールしたい。


医薬資源の探索

研究の内容

巨大炭素鎖を有する海洋性生理活性物質

海洋性天然有機化合物では、ポリケチド由来と考えられる極めて長い一本の炭素鎖を骨格とする特徴がある。こうした特徴を持つ化合物群は、生体成分であるタンパク質や多糖類、あるいは合成ポリマーのような繰り返し構造を持っていないという点で有機化学的に斬新な化合物であると考えられる。

例えば、腔腸動物イワスナギンチャクより単離・構造決定したパリトキシンは、分子量2,680とこれまでになかった巨大有機分子として歴史に残っている。さらに日本産の海綿動物クロイソカイメンからハリコンドリンB(分子量1,110)を抗腫瘍性物質として発見した。この物質もその新規な構造と強い抗腫瘍活性から大きな驚きを持って迎えられ、現在制がん剤として開発が進められている。これ以外にも、海洋生物に共生する渦鞭毛藻が産生する巨大分子シンビオジノリドなどの化学構造と生理機能について研究を進めている。

これらの化合物では抗腫瘍活性や抗菌活性などのほか、癌の転移に関わる血管新生の抑制や炎症性シグナル分子の活性化など、新たなメカニズムに基づく生理機能が見出されている。これらの特異な機能を有する有機分子を「巨大炭素鎖有機分子」と定義し、未だ断片的にしかわかっていない自然界の創造物について総合的な研究を進めている。


ハリコンドリンBとエリブリン

渦鞭毛藻の培養

メタゲノムライブラリー解析

海洋生物に共生する微生物は様々な二次代謝産物を産生すると考えられているが、これらの多くは人工的に培養することが困難である。そのため、新たな物質探索の手段として難培養性の海洋生物共生微生物の遺伝子を直接的に抽出したメタゲノムライブラリーを構築し、二次代謝産物の生合成遺伝子を発現させて有用物質生産につなげる研究を進めている。

共生生物を豊富に含むことで知られる海洋生物クロイソカイメンの組織破砕物を遠心分離で順次分離したところ、特定の条件で宿主海綿の細胞と共生細菌を効率よく分離できることを見出した。この共生細菌画分より約40 kbpの高分子量ゲノムDNAを高純度で得ることに成功し、第二世代シーケンサで解析することで約50 Mbに及ぶ遺伝子情報を得た。このゲノムDNAを用い大腸菌で150,000クローンからなるメタゲノムライブラリーを構築し、様々な生理活性物質の生産を指標にしたスクリーニングで有望株を選別することで物質生産へと応用できる研究を進めている。


メタゲノムの解析

植物由来生理活性物質

現代社会において健康意識の向上とともに、手軽に栄養のバランスを整え健康効果があるとされる機能性食品(サプリメント)が普及している。長い人類の歴史の中で培われた食経験の中で、様々な食品が経験的に「身体にいい」ことを学んできたが、社会のニーズからその有効性や品質についてはより厳密な科学的な根拠が求められるようになってきた。健康を維持するために有用な資源である食品を科学的知見から活用していくことは、高齢化社会を迎えつつあるわが国にとって重要な課題と言える。特に植物素材を中心とする天然資源から得られる生理活性物質は、医薬品や機能材料のリードとして期待もされており、ライブラリー化によって隠された機能を発掘する必要がある。

これまで抗高血圧症活性を指標にした健康食品からの物質探索研究を展開してきたが、さらにメラニン蓄積阻害を指標にしたいわゆる「美白剤」開発へと研究を進めている。


美白剤の検定